AXS(Active X-ray Spectrometer)

文責:杉本駿

月を始めとする宇宙に存在する天体の起源と進化の謎について,NASAアポロ計画以来,我々人類は様々な調査を行ってきました.日本においても,月周回衛星「かぐや(SELENE)」が2007年に打ち上げられ,月の起源と進化の解明のための科学データを取得し,月周回軌道への投入や軌道制御技術の実証を行うことをミッションとしました.このミッションにて,月の外側からのデータの解明は進んだが,内部調査は進んでおらず,解明には至っていません.そこで「かぐや」に続く計画として,2020年代に月着陸探査機の打ち上げが予定されています.そこで,月面内部の調査を行い月の起源と進化の解明の手がかりを入手するため,探査機には元素分析機の搭載が予定されています.

本研究班では,その月面着陸探査機に搭載を想定した元素分析装置「能動型蛍光X線装置(AXS)」を研究対象として取り扱っています.その中でわれわれは月面環境で以下の問題点を考慮し熱設計を行います.その問題点とは,①大きな温度変化(-170~120[℃]),②外部環境からの輻射,③レゴリス(月の砂と呼ばれる埃のようなもの)です.
装置のエネルギー収支は,外部環境からの熱輻射と内部からの投入電力による放熱により構成されますが,正味入射する熱量と内部からの放射熱の合計量を宇宙空間へ射出するに十分な放熱面を持つ必要があります.
一方,筐体内部では,周期的な温度変化を与える部分と,一定温度に保つ部分とが隣接しています.X線発生源(XRG)は焦電式を採用することで,放射性同位体を不要としています.これに規則的な温度変化を与えることでX線フラックスの再現性を確保し,十分な強度のX線照射量を保ちます.また,X線検出器(XRS)にはシリコン・ドリフト・ディテクター(SDD)を採用していますが,検出部において熱電子によるノイズを低減するために,温度を少なくとも–5[℃]以下に保つ必要があります.XRG,XRSの内部温度制御には,熱電変換モジュール(TEC)を用います.AXS筺体側とXRG,XRSとの間にTECを設け駆動電流を制御することで,各部に必要な温度履歴を与え,最適な熱設計を行います.

また,2014年度まで研究として,月面環境におけるAXSの熱解析モデルを構築してきました.モデル構築を三段階に分けると,初めに,AXS筐体と月面間での熱収支を解析し,規定温度に保つモデルを構築しました.次に筐体内部のXRS,XRGの熱解析モデルを作成し,必要な温度履歴を与えるような運用法を検討しました.そして,その運用法の下,XRS・XRGを同時に運用する際に生じる熱干渉を小さくする設計を行ってきました.今年度我々は,実機を導入した検証実験を行うことで,熱設計の妥当性の確認と改善モデルの提案を行います.